INTERVIEW

日産自動車株式会社

パワートレイン生産技術開発本部
パワートレイン生産技術部 機械加工技術グループ

木村 克昌 Kimura Katsumasa

椿本興業株式会社

神奈川・山梨SD
装置営業部
FA一課 課長

内山 敦史Uchiyama Atsushi

PROJECT OVERVIEW プロジェクト概要

日産自動車 様が世界で初めて量産を可能にした可変圧縮(VCR)エンジン。
その重要部品の一つである「L-link」は一般的なエンジン部品の約3倍の硬度と1/1000mmレベルの精度が求められる精密加工部品で、
国内一極集中で生産されている。
今回、福島県のいわき工場にL-linkの生産・加工ラインを建設するにあたり、
椿本興業は搬送ラインの設計・施工をお任せいただいた。

CHAPTER.1

A4一枚の仕様書から始まった
“アクセスフリー”なライン設計

搬送ラインを椿本興業にお任せいただいた経緯をお聞かせください。

木村L-linkの加工ラインの立ち上げは今回で3回目。
椿本興業さんには前の2回とも搬送ラインに関わってもらった実績があったので、今回も製造計画が立ち上がった時点で声をかけたんです。お付き合いも長いので日産のルールも知ってくれていますから、パートナーとして一緒にやっていけると思いました。

内山最初は2018年に横浜工場で搬送ラインの1/3ほどを、翌年は日産工機さんで1〜2割ほどを担当して、かなり経験を積ませていただいたんですよね。今回は仕様検討も一緒にさせていただいたこともあり、搬送ラインの100%をお任せいただきました。

木村ロボットやガントリーローダにしろコンベアにしろ、搬送の依頼をすれば何かしら提案をしてくれるのが椿本興業さん。私が考える仕様計画に対して、経験から改善策を提案してくれるので相談相手として頼りになりますし、お付き合いしているメーカーさんが多いので、設備の選択肢が増えるんですよ。
特にL-linkのように搬送方法が確立されていない新しい部品の場合、椿本興業さんのノウハウで私たちの知識を補ってもらえるので非常にいいですね。

内山ありがとうございます。信用のあるメーカーさんをご提案していますし、私自身も木村様からの信用を得られる仕事を心がけています!

計画段階ではどのようなラインにしたいとお考えでしたか?

木村今回のコンセプトは「アクセスフリーなライン」。設備と設備の間に搬送ラインが入ると、そこを人が避けて通らなくてはいけません。障害物がなく、人が作業しやすいラインにしたい。そのコンセプトや導入したい設備などをA4一枚の紙に書いて内山さんにポンと渡したのが最初です。

内山そこから20〜30回ほどリバイスしましたね。過去2回の実績で、製造部門や保全部門の方から作業性についてお話を伺っていたので、使いやすいようにここを改善した方がいいのでは、と提案しながら設計していきました。

木村私たちはどうしても加工設備を優先して考えるので、搬送設備に関しては入口と出口の仕様だけが決まり、間の搬送は「さてどうしようかな」と悩むことが多かったんです。加工機同士の取り合いやコンベアでのワークの姿勢変換、処理時間のバッファの取り方なども丸ごと任せられたのは、椿本興業さんだからでしょう。「アクセスフリー」というコンセプトは天井走行の搬送で実現してくれました。A4一枚の仕様書からでも絵を描いてくれるところが非常にやりやすかったですね。

内山いかに木村様を手抜きさせられるかが私の仕事ですから(笑)。木村様のように技術職の方は中心となってプロジェクトを進める立場にありますから、少しでも負荷が減るように、手間がかからない形で打ち合わせや資料も準備していました。

木村メーカーさんとのネットワークが広いので、A社がダメならB社、と柔軟に動いてくれましたし、メーカーの負荷を考えて発注の配分や納期管理もしてくれました。日産の目線に立って仕事をしてくれる商社さんだと信頼していますよ。

CHAPTER.2

終始“目立たない”、
理想的なプロジェクトだった

今回の搬送ラインでは、椿本興業が全てのメーカーを取りまとめたとお聞きしました。

木村そうなんです。例えばスケジュールの変更がある場合でも、一社一社に伝えていたら私の仕事が何倍にもなる。それを内山さん一人に伝えたら全メーカーさんに伝わるんですから、私が楽じゃないですか(笑)。

内山木村様がおっしゃる内容を噛み砕いて各メーカーさんに展開して、そこから返ってきた6社の計画をまとめて木村様に報告する、ということを週に2回ほどやっていました。

木村長年一緒にやってきた仲なので、ここまで言っておけば分かってくれるだろうという安心感がありましたね。実行段階に移ってからも、各メーカーさん同士の意見を調整してくれたので、この規模のラインでは珍しいほど淡々と進みました。

トラブルはなかったのですか?

内山細かなトラブルはありましたよ。状況が変化するたびに裏で微調整は行なっていました。例えば、ある設備の納入が数週間遅れるなら、全体に影響が出ないようにメーカーさんと話をして機械の搬入の順番を変えたりスケジュール調整をしたり。
大切なのは、解決策がないまま木村様に状況報告をしないこと。A方策とB方策がありますがどちらにしますか、と必ず解決策と一緒に報告をしていました。

木村そうそう、最終の納期が変わらないなら別にいいよ、と。私としては搬入順の調整に時間を割きたくないので、そこを任せられたのは助かりました。

内山ありがとうございます。納期に責任を持つのは絶対ですし、当たり前のことを当たり前にやっている意識でした。あえてその時に心がけていたことを挙げるなら、コミュニケーションをしっかり取るようにしていたことですね。現場に行けば商社さんやメーカーさんとも顔を合わせて逐一状況は共有していましたし、お互いに無理を聞きあえる関係性は築けていました。それで現場で揉めることがなかったのかもしれません。

木村量産が始まってからが本当の勝負ですから、プロジェクト自体は静かに始まって静かに終わるのが理想。コロナ感染者も労働災害も発生せず、淡々と進んだ今回のプロジェクトは大成功と言えますね。

CHAPTER.3

世界初に挑む新しいラインを、
椿本興業と共に

実際に稼働されてみて、ラインの仕上がりはいかがでしたか?

木村設備に統一感があるのが非常に良いですね。一週間もあれば、作業者はどの工程でも操作ができるようになるんじゃないでしょうか。

内山設備が同じだと保全部門の方の作業効率が上がりますよね。
日常使いするような機械は、少し値が張ったとしてもオーバースペックであったとしても、長期的に見れば同じタイプで揃えたほうが合理的な場合があると思うんです。

木村バランスをうまく取ってくれたと思いますよ。計画段階で私が作成した使用機器リストを渡しましたが、その通りに進めるだけではなかったし、かといって価格や機能といった目先のメリットだけで提案するのでもなかった。リストに対して「後継機が出ていますよ」といったフィードバックをもらえるし、それに対してこちらも「それにしよう」とか「保全部門の要望があるから古いままで行こう」とフィードバックして、どんどんブラッシュアップされていきました。

内山「使う人が使いやすいラインを作れ」と社内で徹底的に鍛えられていますから(笑)。当社からすればそれが当たり前なんです。

木村その当たり前が後からボディーブローのように効いてくるんですよ。椿本興業さんは目的を伝えれば的確に提案してくれる。
打てば響く商社です。

今後、椿本興業に期待することはありますか?

木村今回のラインはオーソドックスに作りましたが、ラインに一つキラリと光るものを入れるのが私のポリシー。特にこれからは、IoTの導入やカーボンニュートラルの実現など、新領域への対応が求められる時代です。椿本興業さんなら、メーカーさんとのネットワークも広くて引き出しも多いので、その変化に対して柔軟に対応してくれると期待しています。まずは近いうちにオール電動化の工場を作りたいですね。

内山オール電動化はできます。任せてください。

木村将来はセンサーレスをやりたいんですよ。カメラで上からワークを撮って、どこを何が流れているかを把握して取りに行く。
そんな世界初の工場を作りたいですね。どうですか、内山さん。

内山チャンスをいただければぜひ!最先端の設備提案でその挑戦をお手伝いさせていただきます。

※2022年2月取材